小石川産業医事務所

判例に学ぶ復職実務:7つの原則

復職をめぐるトラブルは、メンタルヘルス不調を中心に、今なお多くの企業で生じています。 裁判例をみると、「復職させたこと」「復職させなかったこと」そのものよりも、その判断に至るまでの考え方や手順が厳しく問われていることが分かります。

本記事では、過去の裁判例を横断的に読み解きながら、復職に関して産業医として言える実務上の原則を整理します。 なお、本記事は法律的な判断を示すものではなく、産業医の立場から、健康管理・就業配慮の観点で整理したものです。


原則1:復職判断では「結論」よりも「プロセス」が重視される

裁判例を通じて一貫して見られるのは、復職の可否そのものより、どのようなプロセスで判断したかが重視されている点です。

  • どの情報を集めたのか
  • 誰が、どの立場で評価したのか
  • どのような点を考慮して結論に至ったのか

こうした判断過程が整理されていない場合、たとえ結果として合理的に見える判断であっても、問題視されやすい傾向があります。

産業医としては、結論を急がせる存在ではなく、判断プロセスを整える役割が求められます。


原則2:復職前の産業医面談は、実務上きわめて重要な位置づけにある

復職前に産業医面談を実施することは、法律上の形式的義務とまでは言えないものの、裁判例上は、復職判断の合理性を支える重要な要素として位置づけられることが多くあります。

特に、

  • 産業医面談を経ずに復職させたケース
  • 面談を拒否したまま復職を求めたケース

では、「適切な評価ができたかどうか」が争点になりやすく、面談を通じた評価の有無が判断の分かれ目となっています。

産業医面談は単なる形式ではなく、安全配慮義務を果たすための合理的な手段の一つと理解することが重要です。


原則3:復職可否は、単一の医師判断では決まらない

裁判例では、

  • 主治医
  • 産業医
  • 会社

それぞれの判断が食い違う場面が少なくありません。

重要なのは、誰の意見が正しいかではなく、「就業可能性」という観点から、どのような情報を総合して判断したかです。

主治医の「復職可能」という意見があっても、それだけで復職が当然に認められるわけではありません。 一方で、産業医意見や会社判断も、根拠や検討過程が不十分であれば、形式的なものとして評価されにくくなります。

産業医には、医学的回復と就業適合性の違いを整理し、橋渡しする役割が期待されています。


原則4:本人の復職希望は重要だが、それだけで復職可とはならない

「本人が強く復職を希望している」という事情は、復職判断において重要な要素の一つです。 しかし裁判例では、本人の意思だけを根拠に復職を認めることには慎重な姿勢が示されています。

復職判断では、以下の要素を総合的に考慮する必要があります。

  • 本人の意欲
  • 現在の症状
  • 業務内容
  • 職場環境
  • 再発リスク

産業医としては、本人の希望を尊重しつつも、それに引きずられない評価が求められます。


原則5:メンタルヘルス不調後の復職では「再発リスク」と「業務適合性」が核心となる

メンタルヘルス不調後の復職に関する裁判例では、「現在症状が落ち着いているか」だけでなく、再発リスクをどのように評価したかが重要な論点になります。

特に、

  • 一時的な改善のみで復職させたケース
  • 原職復帰の可否を十分に検討しなかったケース

では、判断の妥当性が問題視されやすい傾向があります。

産業医には、診断名や症状の有無だけでなく、業務との適合性や職場要因を踏まえた評価が求められます。


原則6:記録と説明が、復職判断の合理性を支える

裁判例をみると、

  • 産業医面談記録
  • 判断理由の整理
  • 本人や関係者への説明内容

といった「記録」と「説明」が、判断の合理性を裏付ける重要な要素になっています。

逆に、「なぜその判断に至ったのか」が後から説明できない場合、企業側の対応が不利に評価されることがあります。

産業医としては、結論だけでなく、考えた過程を残すことが極めて重要です。


原則7:産業医が関与しない復職判断は、後から脆弱になりやすい

判例を横断してみると、産業医が復職判断に関与していないケースでは、判断の根拠が弱く、後から問題視されやすい傾向があります。

産業医の意見は、復職判断を「正解」にするためのものではありません。 しかし、判断プロセスに専門的視点を組み込むこと自体が、実務上の防波堤になります。


まとめ:判例から見えてくる、復職実務の本質

復職に関する裁判例を通じて見えてくるのは、「復職させるべきだったか」「させるべきではなかったか」という二択ではありません。

問われているのは一貫して、

その復職判断は、合理的なプロセスを踏んで行われていたか

という点です。 産業医は、そのプロセスを医学的・実務的に支える立場にあります。



※注意書き

本記事は、過去の裁判例を参考に、産業医の立場から復職実務を整理したものです。 個別の事案についての法的判断や対応については、専門家にご相談ください。