「冬は加湿したほうがいい」──これは常識のようですが、一方で「加湿器の手入れが大変」「本当に効果があるのか?」という疑問も現場ではよく聞かれます。
結論から言うと、加湿はやったほうがいいですが、メンテナンス(洗浄)のコスト問題もあり、すべての事業所に強くおすすめするほどの強力な医学的エビデンスはありません。
本記事では、乾燥が体に与える影響のメカニズムと、現実的なオフィスの対策について解説します。
1. 乾燥と感染症(かぜ・インフルエンザなど)

乾燥(特に低湿度)は、「体の防御機能」と「病原体側の都合」の両面から感染リスクを高めます。
- 粘膜の防御ダウン: 鼻やのどの粘膜が乾くと、異物を外へ運ぶ「線毛運動」などの働きが落ち(mucociliary clearance低下)、ウイルスが侵入・定着しやすくなります。
- ウイルスの生存アップ: インフルエンザウイルスなどは、乾燥した環境で生存期間が延び、空気中を漂いやすくなることが示されています。
ただし、「オフィスを加湿すれば感染症や欠勤が確実に減るか?」という点については、研究結果はまちまちで確実な結論は出ていません(Cochraneレビューなど)。
したがって、「加湿さえすれば安心」ではなく、換気・手指衛生・睡眠といった基本対策とセットで考えるのが正解です。
2. 乾燥と肌荒れ(皮膚トラブル)

湿度が低いと、皮膚から水分が蒸発しやすくなり(経皮水分蒸散量:TEWLの上昇)、肌のバリア機能が低下します。
特に冬場は「乾燥した空気」に加え、感染対策での「頻回な手洗い・消毒」が重なるため、手湿疹などの皮膚トラブルが非常に起きやすい環境です。手荒れは痛みだけでなく、黄色ブドウ球菌などの定着リスクにもなるため、医療・介護職だけでなくオフィスワークでも軽視できません。
3. その他の健康影響

- 目(ドライアイ): 画面作業中はまばたきが減るため、低湿度環境ではドライアイが悪化しやすくなります。
- 鼻・のど: 粘膜の乾燥により、咽頭痛、咳、鼻出血などが起きやすくなります。
- 喘息・アレルギー: 乾燥した冷気は気道過敏性を高めることがあります。一方で、湿度を上げすぎるとカビやダニが発生し、アレルギーの原因となるためバランスが重要です。
4. 実務での落とし所(現実的な対策)

オフィスや家庭でできる「落とし所」としての対策は以下の通りです。
- まずは「見える化」: 体感は当てになりません。湿度計を置き、現状を把握しましょう。
- 目安は40~60%: 感染防御・カビ防止のバランスとして、**相対湿度40~60%**が推奨されます(厚生労働省、CDCなど)。
- 加湿するなら「衛生管理」が必須: 加湿器のタンクやフィルターが汚れていると、カビや細菌(レジオネラ菌など)をばら撒くことになります。「毎日給水・定期清掃」ができないなら、加湿器は置かないほうがマシということもあります。
- 個人の保湿対策:
- 手洗い後、30秒以内にハンドクリームやワセリンを塗る。
- 就寝前に保湿剤を厚塗りし、綿手袋をして寝る。
5. コスパ最強の対策:マスク

もし「加湿器の管理は無理だが、乾燥対策はしたい」という場合、マスクの着用が最も手軽で効果的な選択肢になります。
- 天然のミニ加湿器: マスク内は自分の呼気によって湿度が高く保たれます(湿度80%以上になるという報告もあります)。これにより、のどや鼻の粘膜(気道上皮)が潤い、線毛運動などの防御機能が維持されます。
- 医学的エビデンス: NIH(米国国立衛生研究所)の研究でも、マスク着用による吸気の加湿が、呼吸器ウイルスの重症化抑制に寄与する可能性が示唆されています。
- 注意点: 一方で、口呼吸になりがちだったり水分摂取が減ることで、逆に「口の渇き」を感じることもあります(Mask mouth)。マスク着用時は意識してこまめに水を飲むようにしましょう。
まとめ
冬の室内環境管理は、以下の3点がポイントです。
- 加湿は「推奨」だが「必須」ではない(メンテできるならやる)
- 「マスク」は個人の加湿器として優秀(コスパ◎)
- 肌と粘膜の保湿は、個人の防御策として有効
- 湿度40-60%を目安にコントロールする
無理のない範囲で、快適な環境を整えていきましょう。
参考文献
- Shaman J, Kohn M. Absolute humidity modulates influenza survival, transmission, and seasonality. PNAS. 2009. PMID: 19204283
- Kudo E, et al. Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection. PNAS. 2019. PMID: 31085641
- Byber K, et al. Humidification of indoor air for preventing or reducing dryness symptoms or upper respiratory infections. Cochrane Database Syst Rev. 2021. PMID: 34891215
- Chou TC, et al. Transepidermal water loss and skin capacitance alterations in ultra-low-humidity environments. Int Arch Occup Environ Health. 2005. PMID: 15750803
- WHO. Guidelines for indoor air quality: dampness and mould. 2009. WHO Link