現代のオフィスワークにおいて、パソコンやスマートフォンを使わない日はありません。 しかし、ディスプレイを長時間凝視し続ける作業(VDT作業:Visual Display Terminal work)は、知らず知らずのうちに私たちの体、特に「目」に深刻なダメージを与え、仕事のパフォーマンスを奪っています。

本記事では、VDT症候群(IT眼症)が生産性に与える影響と、医学的エビデンスに基づいた具体的な対策について解説します。

1. その疲れ、単なる「目の使いすぎ」ではありません

VDT症候群(テクノストレス眼症)とは、ディスプレイなどの画面を長時間見続けることによって引き起こされる、目や体、心の不調の総称です。

日本のオフィスワーカーの深刻な実態

慶應義塾大学のチームが行った大規模な疫学調査(Uchino et al., 2008)によると、VDT作業を行う日本のオフィスワーカーの 男性の60.2%、女性の76.5%が「ドライアイ(確定・疑い含む)」 と判定されました。 特に、 1日4時間以上 のVDT作業を行う場合、そのリスクは有意に上昇します。

ドライアイは単に目が乾くだけでなく、

  • 視界がぼやける(実用視力の低下)
  • 集中力が続かない
  • 強い肩こりや頭痛

を引き起こし、労働生産性を著しく低下させることが指摘されています。

ブルーライトの仕組み

2. ブルーライトと「体内時計」の狂い

画面から発せられるブルーライトは、睡眠にも悪影響を及ぼします。 ハーバード大学の研究チーム(Czeisler et al.)によれば、夜間にブルーライトを浴びると、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌が、同程度の明るさの緑色光に比べて 約2倍も抑制され、体内時計が約3時間も後ろにズレる ことが分かっています。

「夜遅くまでPC作業をして、その後スマホを見て寝る」という習慣は、翌日のパフォーマンスを確実に低下させます。

3. 今日からできる!生産性を守る3つのルール

産業医として推奨する、具体的かつ効果的な対策は以下の3つです。

20-20-20ルール

① 「20-20-20ルール」の実践

米国眼科学会なども推奨している、眼精疲労を防ぐための世界的なスタンダードです。

  • 20分 おきに
  • 20フィート(約6メートル) 先を
  • 20秒間 見つめる

近くにピントを合わせ続けて緊張した目の筋肉(毛様体筋)を、遠くを見ることでリラックスさせます。

② 作業環境の「照度」コントロール

「明るければ良い」わけではありません。実は、 オフィスが明るすぎること が目の負担になっているケースが多くあります。 労働安全衛生法に基づくガイドラインでは、以下が推奨されています。

  • ディスプレイ画面上: 500ルクス以下(明るすぎないように)
  • 手元の書類・キーボード: 300ルクス以上

画面への映り込み(グレア)を防ぐため、ブラインドで外光を調整したり、ディスプレイの輝度を少し下げたりするだけでも、目の疲れは劇的に軽減します。

③ ドライアイ対策の徹底

画面を見ていると、瞬きの回数は 通常の4分の1 に激減します。

  • 意識的に瞬きをする。
  • 乾燥知らずの点眼薬を使用する。
  • エアコンの風が顔に直接当たらないようにする。

まとめ

VDT症候群は、現代の「職業病」です。 「目が疲れたな」と感じたときには、すでに集中力やパフォーマンスは低下しています。

  • 1時間に1回は10〜15分の小休止を入れる(他の業務を行うなどして画面から目を離す)。
  • 寝る前のスマホを控える

これらを意識し、目の健康を維持してください。


参考文献

  1. Uchino M, et al. (2008). Prevalence of dry eye disease among Japanese visual display terminal users. Ophthalmology, 115(11), 1982-1988. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18708259/
  2. Uchino M, et al. (2014). Alteration of tear muncin 5AC in office workers using visual display terminals: The Osaka Study. JAMA Ophthalmol.
  3. Harvard Medical School. Blue light has a dark side. Harvard Health Letter. https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/blue-light-has-a-dark-side
  4. American Academy of Ophthalmology. Computers, Digital Devices and Eye Strain.
  5. 厚生労働省. 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン.