転倒・つまずきは、オフィスでも現場でも起きる代表的な労働災害です。「不注意だったから」片付けられがちですが、実は通路・床・段差・照明・配線・整理整頓など、環境とルールの整備で大きく減らせる「再現性のある事故」です。
本記事では、従業員向け講話資料として、転倒防止のための安全管理と環境改善のポイントを解説します。

1. 転倒の「型」を知る
転倒災害は、大きく分けて以下の3つのパターン(型)で発生します。それぞれ原因と対策が異なります。

- 滑り(Slip): 床の水濡れ、油、滑りやすい床材、靴底の摩耗などが原因。
- つまずき(Trip): 段差、コード配線、床に放置された荷物などが原因。
- 踏み外し(Fall): 階段、段差の視認性不足、足元の暗さなどが原因。
2. 事故は「環境 × 状況」で起きる
転倒は単発のミスではなく、複数のリスクが重なったときに起こります。「スイスチーズモデル」の考え方にあるように、環境(床の状態、照明)と状況(急いでいる、両手がふさがっている)の穴が揃った瞬間に事故が発生します。

個人の注意だけに頼るのではなく、この「穴」を塞ぐ(環境を改善する)ことが事故防止の近道です。
3. 安全管理の基本:優先順位を守る
安全対策には効果的な順序があります(Hierarchy of Controls)。

- 除去(Elimination): 最も効果的。配線をなくす、段差を解消する。
- 工学的対策(Engineering Controls): 滑りにくい床材にする、照明を明るくする、手すりを設置する。
- 管理的対策・個人(Administrative / PPE): ルールを作る、教育する、注意喚起する。
「気をつける」という個人の努力は最後の砦であり、まずは危険源そのものを減らす設計が重要です。
4. 職場の改善ポイント(環境改善)
配線と整理整頓(4S)
つまずきの最大原因の一つが配線です。床を「歩く場所」に戻すために、配線はまとめるか、動線から外しましょう。

- 悪い例: 机の下でコードが絡まり、足元に広がっている。
- 良い例: ケーブルオーガナイザーや結束バンドでまとめ、床面をクリアにする。
床・マット・段差
- 水濡れ: 入口には吸水マットを設置し、雨天時の濡れを防止します。
- 段差: 段差がある場合は「段差あり」の表示や黄色テープで目立たせます(視認性の向上)。
照明
暗がりや影は踏み外しのもとです。特に階段の降り口や足元は、ハッキリ見える明るさを確保しましょう。
5. 行動変容とカラダの準備
環境が整っていても、「急ぎ行動」や「ながらスマホ」は事故のリスクを高めます。 また、とっさの時にバランスをとれる身体づくりも有効です。職場でもできる簡単な運動を取り入れましょう。

- カーフレイズ(爪先立ち): ふくら脛の筋力アップ。
- 片脚立ち: バランス能力の向上。
- スクワット(浅め): 足腰の安定性強化。
これらを「コピー待ちの間」や「始業前」に1分行うだけでも効果があります。
まとめ:今日からできる3つの約束
転倒予防は仕組み化が肝心です。以下の3つを職場の約束として実践しましょう。
- 床を整える 濡れ・段差・配線を放置しない。
- 見える化する 暗い場所や危険箇所を目立たせる。
- 仕組みで回す 定期的なチェック(4S点検)とヒヤリハットの共有。
参考資料
- 厚生労働省: STOP!転倒災害プロジェクト
- NIOSH (米国労働安全衛生研究所): Slip, Trip, and Fall Prevention for Healthcare Workers
- OSHA (米国労働安全衛生局): Walking-Working Surfaces
- NICE (英国国立医療技術評価機構): Falls in older people: assessing risk and prevention (NG249)
- WHO (世界保健機関): Global report on falls prevention in older age
- Cochrane Library: Exercise for preventing falls in older people living in the community