「健康診断の結果、判定がCやDだったけど、何も症状がないから放置している」──そんな方は少なくありません。 しかし、産業医として断言しますが、症状が出てからでは遅いのが生活習慣病の恐ろしいところです。

本記事では、健康診断の「本当の目的」と、産業医が特に重視する「受診推奨ライン(危険水域)」について解説します。

1. 健康診断は「突然死」を防ぐためのもの

氷山の一角:自覚症状なし

高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の最大の特徴は、**「自覚症状がほぼない(無症状)」**ことです。

  • 水面下で進行: 血管は痛みを感じません。知らぬ間に動脈硬化が進み、氷山の下でリスクが巨大化します。
  • ある日突然: 限界を超えたとき、脳卒中や心筋梗塞といった「命に関わるイベント」として初めて症状が現れます。

健康診断は、この「水面下の進行」を可視化できる唯一のチャンスです。

2. どこから治療が必要?(産業医の「受診推奨」基準)

疾患別危険ゾーンチャート

「要経過観察(BやC)」ならまだしも、「要医療(D)」の判定が出ている場合は、即座に動く必要があります。特に以下の「3大生活習慣病」の基準を超えている場合は、放置厳禁です。

① 高血圧:160/100 以上は「赤信号」

  • 基準: 収縮期140/90以上で高血圧と診断されますが、160/100 mmHgを超えるとリスクは跳ね上がります。
  • 産業医の視点: このレベルの方は、いつ脳出血などを起こしてもおかしくない「着火済み爆弾」を抱えている状態です。まずは受診し、薬を使ってでも数値を下げることが最優先です。
    • 参考文献: 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019

② 糖尿病:HbA1c 7.0% 以上で「合併症」リスク

  • 基準: HbA1c(過去2ヶ月の血糖平均)が**6.5%**を超えると糖尿病型、**7.0%**を超えると網膜症や腎症などの合併症リスクが上昇します。
  • 産業医の視点: 「喉が渇く」「痩せてきた」などの症状が出るのはHbA1cが10%を超えてからです。7.0%を超えたら、自覚症状がなくても必ず内科を受診してください。
    • 参考文献: 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024

③ 脂質異常症:LDL 160mg/dL 以上

  • 基準: LDL(悪玉)コレステロールが140以上で脂質異常症ですが、160〜180mg/dLを超えると動脈硬化が強く疑われます。
  • 産業医の視点: 特に「高血圧」「喫煙」「糖尿病」など他のリスク因子を併せ持っている場合(吹田スコアなどのリスク評価)、数値がそこまで高くなくても治療が必要です。
    • 参考文献: 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022

3. 知っておきたい健康診断の「義務」

健康診断は単なる福利厚生ではなく、法律によって「会社」と「従業員」の双方に義務が課せられています。

  • 企業の義務(労働安全衛生法 第66条)
    会社は、従業員に対して健康診断を実施する義務があります。これを怠ると、会社側が是正勧告や罰則を受けるだけでなく、万が一従業員が倒れた際に「安全配慮義務違反」を問われる重大な法的リスクを負います。
  • 従業員の受診義務(労働安全衛生法 第66条第5項)
    意外と知られていませんが、従業員側にも「会社が行う健康診断を受ける義務」があります。これを「自己保健義務」と呼びます。正当な理由なく受診を拒否することは業務命令違反となり、懲戒対象となる可能性も判例上認められています。

「自分の体だから勝手だ」という考え方は、職場においては通用しません。皆さんが健康で安全に業務を遂行することは、組織としての最低限のルールなのです。

4. 会社としての対応

健康診断の結果は、会社(事業者)にも通知されます。 会社には従業員の「安全配慮義務」があるため、例えば「高所作業をする人が重度の高血圧や低血糖リスクのある糖尿病を放置している」場合、**残業の制限や配置転換(就業制限)**を命じることがあります。 これは「意地悪」ではなく、勤務中の倒れるリスクから皆さんを守るための措置です。

4. プラスアルファのおすすめ検査(がん検診・ワクチン)

がん検診タイムライン

法定健診(会社の健診)だけではカバーしきれない検査もあります。年齢に応じてオプション追加を検討してください。

  • がん検診(推奨年齢)
    • 子宮頸がん: 20歳〜(女性)
    • 乳がん: 40歳〜(女性)
    • 大腸がん: 45歳〜(便潜血なら毎年)
    • 胃がん: 50歳〜(ピロリ菌検査も一度は推奨)
  • ワクチン(大人の予防接種)
    • 帯状疱疹: 50歳以上で推奨(発症すると痛みが長引くため、シングリックス等の接種が有効)。
    • HPV: 若い世代だけでなく、中高年の男性・女性にも肛門がんや中咽頭がん予防として注目されています。

まとめ

  • D判定(要医療)は「今すぐ病院へ」のサイン。
  • 特に血圧160・HbA1c 7.0・LDL 160は放置NG。
  • 会社はあなたの健康状態を知り、守る義務がある。