アルコールと健康について、様々な論文が発表されています。最近では、「少量でも健康に害がある」という研究が多いのでご紹介します。
この背景には、有名な「アルコールは少量であれば健康にいい」という研究[1]があります。この研究では、以下の図のようにアルコールを全く飲まないよりは少量摂取している方の死亡率が低いという結果が出ていました。これについては、「お酒を少し飲むと心臓疾患のリスクが下がるからだ」などと理由づけられていましたが、これに対して違和感を感じていた研究者も多く、追加の調査が多く行われました。

なぜ違和感があったかというと、アルコールを飲んでいない方のなかには、アルコールのせいで病気になって禁酒したという方が隠れているのではないか、など「アルコールを飲まない方」の死亡リスクが高くなってしまっている可能性が否定できなかったからです。
その結果出てきた論文が、2018年にLancetへ発表された二論文です。一つは、1990~2016年にかけて195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したもの[2]で、「全くアルコールを飲まないことが健康に最もよい」と結論づけています。その結論の根拠となるのが、以下の図です。死亡率が、アルコールの消費量が多いほど上がっていることが分かります。もう一つの論文[3]では、19の高所得国の住民を対象とした3つの大規模研究の結果を根拠に、「死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールに換算して週に100gが上限」と結論づけています。

その他に、少量でも脳に影響が出る、などの研究も発表されています。2022年にNature communicationsに発表された論文[4]では、アルコール摂取量が多いほど、灰白質と白質の体積が減少することが示されました。この効果は、女性や高齢者ではより顕著で、飲酒量が少量であっても影響が認められました。このように、お酒が好きな方には逆風の研究が次々と出ています。
実際に、飲酒がどのような健康リスクと関係があるのかについても、ほぼ結論が出ています。まず、少量であれば心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが下がります。しかし、がん、肝臓疾患、膵炎など他の疾患のリスクは少量でも上がっていくため、心疾患を予防する効果を上回る健康への害があると評価されています。2021年に発表された論文では、2020年に全世界で発症したがんのうち、4.1%がアルコール摂取と関連があると推計しています[5]。さらに、WHOの発表によると、アルコール消費は全体的な病気や障害の負担(DALYs)の5.1%を占めることや、15歳から49歳までの年齢層では死亡率や障害率(YLDs)の最大要因であるとされています[6]。
では、どのくらいの飲酒量であれば許容されるのでしょうか。今回紹介した研究の1つ[3]では、週に100g程度であれば、あまり健康リスクは上がらないとされています。厚労省から推奨されている飲酒量は1日に20gとされています。これは、ビールなら500ml、ウイスキーならダブル、日本酒なら1合といった量です。
1週間100gはこれまで適正量と言われていた1日20g(1週間換算だと140g)よりも少ないことには注意が必要です。しかし、飲酒量を絶対ゼロにしなければいけないわけではありません。とはいえ、毎日飲酒する習慣がある方は、徐々に飲酒量を少なくする努力をしてもいいかもしれません。
6 Alcohol. https://www.who.int/health-topics/alcohol (accessed 24 Feb 2023).